📝 ハーバード大学の特許出願
ハーバード大学附属ブリガムアンドウィメンズホスピタルが、STAP細胞の作成方法に関する特許を日本、米国、欧州など世界各地で出願し、維持料も支払っていました。
2016年4月22日に日本国内でも特許出願に関する実体審査請求が提出されていたことが明らかになりました。
特許の範囲は「細胞にストレスを与えて多能性が生じる方法のメカニズム」と広く設定されており、酸性溶液だけでなく様々なストレス方法を含んでいました。
⚠️ 誤解を招きやすい点
特許出願があったからといって、STAP細胞の存在が科学的に証明されたわけではありません。特許は将来的な可能性に基づいて出願されることもあります。
「これでSTAP細胞の存在が証明された」という報道がありましたが、特許出願と科学的証明は別物です。
理研の公式発表では「STAP細胞論文はほぼ事実ではなかった」「実験結果はES細胞の混入したものによる」として存在を否定しています。
💭 ハーバード大学が特許出願した理由
将来的な再生医療への応用を見据え、広い範囲で特許を確保しようとした可能性があります。
小保方氏の元指導教官であるチャールズ・バカンティ教授は、STAP細胞の概念を提唱し、研究を支持していました。
特定の方法だけでなく「細胞へのストレス付与による多能性獲得」という広い概念で特許を取得しようとした可能性があります。
📊 2025年現在の状況
2014年12月の理研による検証実験の失敗以降、STAP細胞の存在を科学的に証明した研究は発表されていません。
ハーバード大学が出願した特許がその後どうなったかについての最新情報は公開されていません。
STAP細胞事件は、科学研究における倫理、再現性の重要性、メディア報道のあり方などについて多くの教訓を残しました。
2014年に世界を騒がせたSTAP細胞研究。小保方晴子氏の研究は後に否定されましたが、その特許出願をめぐる状況は今なお多くの誤解を生んでいます。「ハーバード大学がSTAP細胞の特許を取得した」という情報が広まっていますが、これは正確ではありません。
STAP細胞に関する特許は、当初は理化学研究所(理研)とハーバード大学附属ブリガムアンドウィメンズホスピタル(バカンティ教授が所属)の共同出願でした。しかし、STAP細胞の存在が否定された後、理研が権利を放棄したため、ハーバード側の単独出願となりました。
さらに重要なのは、2024年4月23日に米国で特許登録された内容は、もはや当初のSTAP細胞の特許ではないということです。特許内容は何度も補正され、最終的には「Oct4発現細胞」の製法プロセス特許という、当初とは大きく異なる内容になっています。また、特許権者もハーバード大学ではなく、VCELL THERAPEUTICS, INC.という企業になっています。
STAP細胞研究の特許出願は、小保方晴子氏が大学院時代に留学していたハーバード大学のチャールズ・バカンティ教授との共同研究に端を発しています。バカンティ教授は生体組織工学の分野で著名な研究者で、多くの特許を持つ人物です。
2012年3月、小保方氏とバカンティ教授らは米国に仮特許を出願し、2013年4月には国際特許出願(WO2013/163296)を行いました。この特許出願の内容は「細胞をストレスにさらすことを備える多能性細胞生成方法」というもので、非常に広範な権利を主張するものでした。
バカンティ教授は当初から、STAP細胞はバカンティ自身の研究成果であり、小保方氏は研究協力者の1人という立場をとっていました。2014年のSTAP細胞論文発表後、バカンティ教授は「小保方がいなければSTAP細胞の研究発表は先にまでずれこんでいただろう」と語りつつも、自身のチームによる独自のSTAP細胞プロトコルを発表するなど、積極的に研究を続けていました。
しかし、世界中の研究者による追試でSTAP細胞の再現に成功した例はなく、バカンティ教授自身が指導した研究者たちも再現に成功しませんでした。それにもかかわらず、バカンティ教授は「論文を撤回する理由は見当たらない」と主張し続けました。
STAP細胞研究が否定された後、理化学研究所は特許出願に関する権利を放棄しました。一方、ハーバード大学側は特許出願を継続しました。この対応の違いには、両機関の特許戦略の違いが表れています。
理研は、STAP細胞の存在が否定された以上、その特許出願を維持する意義はないと判断しました。科学的に否定された研究に基づく特許を維持することは、研究機関としての信頼性を損なう可能性があったためです。
一方、ハーバード大学側(正確にはバカンティ教授が所属していたブリガムアンドウィメンズ病院)は特許出願を継続しました。これは、たとえSTAP細胞そのものの存在が否定されても、「細胞にストレスを与えることで何らかの変化を起こす」という基本概念に価値があると判断したためと考えられます。
特許出願の継続には多額の費用がかかります。世界各国での特許申請や維持には、推定で1000万円程度の費用がかかるとされています。このような投資を続けるということは、ハーバード側がこの技術に商業的価値を見出していたことを示しています。
2024年4月現在、STAP細胞に関する特許出願の状況はどうなっているのでしょうか。
2024年1月19日、米国特許商標庁(USPTO)から特許許可通知が発行され、3月19日に登録料納付手続きが完了しました。そして、2024年4月23日に特許証が発行される予定で、登録番号は11,963,977とされています。
しかし、この特許はもはや当初のSTAP細胞の特許ではありません。何度も拒絶通知を受け、内容を補正した結果、最終的には「Oct4発現細胞」の製法プロセス特許という、当初とは大きく異なる内容になっています。
また、特許権者もハーバード大学ではなく、VCELL THERAPEUTICS, INC.という企業になっています。この企業はバカンティ教授が関わるベンチャー企業であると考えられます。
この特許登録は、STAP細胞の存在を証明するものではなく、単に特定の細胞処理方法に関する権利を認めたものに過ぎません。
「ハーバード大学がSTAP細胞の特許を取得した」という情報が広まっていますが、これには複数の誤解があります。
これらの誤解が広まった背景には、一部のメディアによる不正確な報道があります。2016年5月に発表された記事では、「米ハーバード大学附属ブリガムアンドウィメンズホスピタルが、STAP細胞の作成方法に関する特許出願を、日本、米国、EPO(欧州特許庁)、カナダ、オーストラリアなど世界各地で行っており、更新料、維持料が支払われている」と報じられました。
この報道は事実ですが、「特許出願」と「特許取得」は全く異なるものです。特許出願はあくまで申請段階であり、審査を経て初めて特許として登録されます。当時の特許出願は、その後何度も拒絶され、内容を大きく変更した上でようやく2024年に登録されたのです。
STAP細胞の特許出願をめぐる経緯は、科学研究と知的財産権の複雑な関係性を示しています。
科学論文と特許出願は、目的も審査基準も異なります。科学論文は研究成果を公開し、他の研究者による検証を受けることを目的としています。一方、特許出願は発明の独占的利用権を確保することを目的としています。
STAP細胞の場合、科学論文としては撤回され、研究そのものは否定されましたが、特許出願は継続されました。これは、科学的真実と特許制度が必ずしも一致しないことを示しています。
特許審査では、発明の新規性や進歩性、実施可能性などが審査されます。STAP細胞の特許出願では、特に「実施可能要件」が問題となりました。特許を取得するためには、その発明を同業者が実施できる程度に明確に記載する必要があります。
STAP細胞の場合、当初はNatureに掲載された論文と同じ方法が特許出願に記載されていました。しかし、世界中の科学者がこの方法で再現できないことが明らかになり、特許庁は「実施不可能」として拒絶理由を通知しました。
これに対し、バカンティ教授は「STAP細胞の存在を否定するものではなく、再現実験に成功している」という宣誓陳述書を米国特許庁に提出しました。しかし、最終的には特許内容を大きく変更することで、ようやく特許登録にこぎつけたのです。
このケースは、科学的真実と特許制度の間に存在する緊張関係を示しています。科学的に否定された発明であっても、特許制度の枠内で権利化される可能性があるのです。
一方で、実施できない発明に特許が与えられたとしても、実質的な問題は生じません。なぜなら、実施できない発明は他者が侵害する可能性もないからです。
STAP細胞の特許出願をめぐる経緯は、科学研究の成果を知的財産として保護する際の難しさを示しています。科学的真実の追求と知的財産権の確保は、時に異なる道を進むことがあるのです。
特許制度は発明を保護し、産業の発展を促進するために存在しています。しかし、科学研究の成果をどのように特許制度に乗せるかは、常に難しい問題です。STAP細胞の事例は、この問題を考える上で重要な教訓を提供しています。
研究者や企業が特許出願を行う際には、科学的真実と特許制度の違いを理解し、適切な戦略を立てることが重要です。また、メディアや一般の人々も、特許出願と特許取得の違い、特許登録と科学的真実の関係について、正確な理解を持つことが求められています。
STAP細胞をめぐる騒動から10年以上が経過した今、この事例から学ぶべきことは多いと言えるでしょう。科学研究と知的財産権の関係性について、より深い理解を持つことが、今後の科学技術の発展のために重要です。