トランプ関税とは、トランプ米大統領が国内産業保護や貿易赤字削減を目的に、米国の輸入品にかける関税の総称です。2025年に導入された主な関税は以下の2種類があります:
📋 品目別関税
特定の品目(自動車・鉄鋼・アルミなど)に対して課される関税
例:自動車に対する25%の追加関税
📋 相互関税
すべての輸入品に対して課される関税で、基本税率と追加税率から構成
例:日本に対する24%の相互関税(10%+14%)
相互関税(Reciprocal Tariff)とは、貿易相手国との関係において、関税負担が相互に対等になるように課す関税制度です。
相互関税の構成要素
構成要素 | 内容 | 例(日本の場合) |
---|---|---|
基本税率 | すべての国に適用される一律の関税率 | 10% |
追加税率 | 貿易赤字の大きさに応じて上乗せされる税率 | 14% |
合計税率 | 基本税率と追加税率の合計 | 24% |
2025年4月時点で適用されている主な国・地域に対する関税状況は以下の通りです:
国・地域名 | 基本税率 | 追加税率 | 合計税率 | 主な対象品目 |
---|---|---|---|---|
中国 | 10% | +115% | 125% | 電子機器、鉄鋼、繊維など |
日本 | 10% | +14% | 24% | 自動車、電子部品、医療機器など |
ドイツ | 10% | +12% | 22% | 自動車、医薬品、工作機械など |
韓国 | 10% | +10% | 20% | 家電製品、半導体、鉄鋼 |
※2025年4月時点。各国との通商交渉状況により変更の可能性あり
トランプ関税の導入と変更の経緯は以下の通りです:
2025年4月2日 | 📝 相互関税導入:トランプ大統領が相互関税を導入する大統領令に署名 |
2025年4月5日 | 🔄 基本税率適用:すべての輸入品に対して一律10%の関税が発動 |
2025年4月9日 | ⚠️ 追加税率適用と猶予:特定の国々に追加関税が適用されるも、一部の国に対して90日間の猶予期間を設定 |
現在の状況 | 🔍 交渉進行中:基本税率10%は全ての国に適用中。追加税率は一部の国で猶予期間中(中国は例外で125%の高率関税を維持) |
出典:各種報道資料および経済分析レポート(2025年4月17日時点)
2025年4月、トランプ大統領は「相互関税」と呼ばれる新たな関税政策を発表しました。この政策は、すべての輸入品に対して最低10%の基本関税を課すというもので、さらに国別に追加関税が設定されています。トランプ大統領はこれを「経済的独立の宣言」と位置づけ、不公平な貿易慣行に対抗する措置だと説明しています。
国別の追加関税率を見ると、中国には当初34%の追加関税が設定され、これにフェンタニルなどの薬物流入対策として既に課されていた20%と合わせると、合計で54%という高率になっていました。日本に対しては24%、EUには20%、台湾には32%、インドには26%の追加関税が設定されました。一方、イギリスやシンガポール、ブラジル、オーストラリア、ニュージーランドなどは基本関税の10%のみが適用されています。
最も高い税率が適用されたのは小規模な国々で、南部アフリカのレソトには50%、ベトナムには46%、カンボジアには49%の関税が課されました。これらの国々は、トランプ政権の初期以降、中国からサプライチェーンを移転した企業の投資が急増していた地域です。
しかし、発表からわずか1週間後の4月9日、トランプ大統領は突如として国・地域ごとに設定した上乗せ部分を90日間停止すると発表しました。基本となる10%の関税は維持されるものの、中国に対する関税政策は大きく変更され、相互関税率は125%に引き上げられました。
4月11日、トランプ政権は相互関税の対象からスマートフォンとコンピューターなどの電子機器を除外すると発表しました。この決定により、中国製品に対する125%の高率関税からも、スマートフォンやコンピューター、半導体や太陽電池、メモリーカードを含む電子機器およびその部品が除外されることになりました。
この除外措置が取られた背景には、アメリカの主要なテクノロジー企業からの強い懸念があります。多くの電子機器は中国で生産されているため、高関税が製品価格の大幅な上昇を引き起こす恐れがありました。ある推計によれば、もし関税コストが消費者に転嫁された場合、アメリカでのiPhoneの価格が最大で3倍に達する可能性もあったとされています。
トランプ大統領は4月11日に発表した大統領覚書で、相互関税が適用されない半導体関連製品を明確にしました。具体的には、米国関税分類番号(HTSコード)4~8桁ベースで20品目が挙げられ、パソコン(HTS8471)やスマートフォン(HTS8517.13.00)、半導体製造装置(HTS8486)などが含まれています。
特にスマートフォンについては、2024年の米国輸入額を国別にみると、中国が8割以上を占めており、相互関税によって国内での販売価格が大幅に上昇することが懸念されていました。この除外措置により、アメリカの消費者は急激な価格上昇から守られることになりました。
トランプ政権は相互関税とは別に、輸入自動車に対して25%の追加関税を発動しています。この措置は日本の自動車産業に大きな打撃を与える可能性があります。
2024年実績で、日本の自動車・部品の対米輸出額は7.2兆円に達しています。ここに25%の関税率がかかる状態は、相互関税が10%に据え置かれる90日間でも継続されます。より厳密に言えば、25%の関税が適用されるのは、自動車・部品に加えて、原動機(1.1兆円)と二輪車(1,200億円)、そして鉄鋼等(3,000億円)と考えられます。
これらを合計すると、予想される年間の追加関税額は2.2兆円(=8.77兆円×25%)と計算できます。この規模感は決して小さいものではありません。法人企業統計年報の2023年度の税引前当期純利益を見ると、自動車・同付属品では10.2兆円、鉄鋼業の利益(1.4兆円)を加えると11.6兆円です。つまり、トランプ関税2.2兆円は、税引前当期純利益の19.0%に相当します。
これは、法人税・住民税・事業税といった企業収益への直接税負担が約2倍になるインパクトと同等です。自動車産業にとっては、米国での輸出車の価格転嫁を十分に進めない限り、一時的とはいえ、収益の大きな下押し要因になることは間違いありません。
トランプ大統領の相互関税発表は、世界の株式市場に大きな衝撃を与えました。4月3日、関税政策の発表を受けて世界の株価は急落し、特にテクノロジー関連銘柄が大きな打撃を受けました。
米国の時間外取引では、マグニフィセント・セブンと呼ばれる大手ハイテク7銘柄の時価総額が約7600億ドル(約112兆円)減少し、中でも中国でiPhoneを製造するアップルの株価は約7%下落しました。この株安はアジア市場へも波及し、24%の関税が発表された日本では、日経平均株価が一時約3%下落しました。香港のハンセン指数も約1.5%下落し、コンピューターメーカーのレノボは序盤に約5%下落しました。
市場関係者の間では、トランプ大統領の関税政策に対する評価は厳しいものがあります。みずほ銀行のチーフエコノミスト唐鎌大輔氏は、トランプ大統領が早期に関税政策を転換した理由として、市場や議会からの圧力があったと分析しています。特に、債券や株式市場がリーマンショック時に匹敵するような記録的な変動を見せており、市場の不安定さが決断に影響を与えた可能性があるとしています。
また、経済学者からは、関税政策が米国経済にもたらす影響について懸念の声が上がっています。デラウェア大学の経済学者トーマス・ブリッジズ氏は、トランプ政権の経済目標が不明確であり、より孤立主義的な政策は結局、より制約のある経済を生み出すことになると指摘しています。
トランプ大統領の相互関税政策は、単なる経済政策を超えて、国際秩序に大きな影響を与える可能性があります。トランプ政権の「力の支配」を誇示する姿勢は、WTO協定違反の可能性が高い相互関税を含め、国内外で「法の支配」を弱体化させているという指摘があります。
2025年1月に再び就任したトランプ大統領は、他国の主権を脅かす発言や行動を通して、ロシアなど権威主義的な国家とともに国際秩序を揺るがしているとの批判があります。法の支配に従って選出された米国の大統領が、国際社会において「法の支配」を無視したかのような「力の支配」を誇示する姿勢は、国際社会の「法の支配」を弱体化させる恐れがあります。
さらに、最近では政権の強権的姿勢が先鋭化し、ホワイトハウス内で一部通信社が締め出され報道の自由が脅かされつつあるなど、米国内でも「法の支配」が揺らいでいるという懸念もあります。
世界のパワーバランスという観点から見ると、米中露のGDPの世界シェアは45.1%、軍事費では55.4%と世界の過半、核弾頭数に至っては91.8%を占めています。中国の台頭により経済力・軍事費ともにこの3か国で世界の半分前後を占め、米露の圧倒的な核戦力も相まって、数字だけみれば協調して「力の支配」を規定する誘惑に駆られてもおかしくない状況です。
これまでは、米国が「法の支配」の維持に「力」を投じてきたことで、東西冷戦時代から長きにわたりパワー・バランスが保たれてきました。しかし、バランサーとして極めて存在感が大きかった米国のリーダーが、ロシアと融和し「力の支配」に傾倒しつつあることの持つ意味は極めて大きいと言えるでしょう。
現状、米中は敵対関係・競争関係にありますが、今後を占う上では米中のリーダー間の関係性がどう変化していくのか、特に注視していく必要があります。関税の報復合戦のさなか、トランプ大統領が習近平国家主席に対して秋波を送るなど、危険な兆候は既に見られています。
トランプ大統領の関税政策は、単なる経済政策ではなく、第二次世界大戦後に確立された国際貿易の枠組みを大きく変える可能性を秘めています。フィッチレーティングスのアメリカ経済調査部門の責任者ルーソン・クラーク氏は、今回の関税措置によりアメリカの関税率が1910年の水準に戻ると予測しており、これはアメリカ経済だけでなく、世界経済全体の状況を一変させるものだと警告しています。
また、ハーバード大学のダグラス・アーウィン教授は、「物価上昇がすぐに現実のものとなる可能性が高い」と指摘し、トランプ氏の発表は、第二次世界大戦後にアメリカが築いた国際貿易システムを「解体しつつある」ことを意味すると述べています。
トランプ大統領の関税政策は、世界経済の不確実性を高め、国際秩序の再編を促す可能性があります。今後の動向を注視し、各国・各企業は適切な対応策を講じていく必要があるでしょう。
トランプ大統領の相互関税政策に対して、日本企業はどのように対応すべきでしょうか。特に自動車産業など、対米輸出が多い企業にとっては、重要な課題となっています。
まず考えられるのは、米国内での生産拡大です。関税を回避するために、日本企業は米国内での生産比率を高めることを検討する必要があります。既に多くの日本の自動車メーカーは米国に生産拠点を持っていますが、さらなる投資拡大や生産車種の見直しが求められるでしょう。
次に、価格戦略の見直しです。25%の追加関税は大きな負担となりますが、これをすべて価格に転嫁することは競争力の低下につながります。一方で、すべてを企業が吸収することも利益を大きく圧迫します。適切なバランスを見極める必要があります。
また、サプライチェーンの多様化も重要です。中国に集中していた生産拠点を、関税の低い国々に分散させることで、リスクを軽減できます。ただし、これには時間とコストがかかるため、長期的な視点での取り組みが必要です。
さらに、製品の高付加価値化も一つの戦略です。関税による価格上昇を吸収できるよう、製品の差別化や高付加価値化を進めることで、価格競争から脱却する道を模索すべきでしょう。
最後に、政治的なリスクヘッジも考慮する必要があります。トランプ政権の政策は予測が難しく、突然の方針転換もあり得ます。政治的な動向を常に注視し、柔軟に対応できる体制を整えておくことが重要です。
日本企業は、これらの対応策を総合的に検討し、トランプ関税による影響を最小限に抑えつつ、新たなビジネスチャンスを見出していくことが求められています。特に、除外品目となった半導体関連やスマートフォン関連の分野では、一時的な安堵感に浸るのではなく、トランプ大統領が示唆している「国家安全保障に関わる関税の調査」の可能性も視野に入れた長期的な戦略が必要です。
トランプ大統領は自身のSNSで、除外された半導体関連製品について「異なる関税『バケツ』に移っただけだ」と述べ、エレクトロニクス製品のサプライチェーンを含めて「国家安全保障に関わる関税の調査」を行うことを検討していると明らかにしています。これは1962年通商拡大法232条に基づく調査を念頭に置いているとみられ、半導体や医薬品などの国内製造を促すための追加関税を課す可能性があります。
日本企業は、このような政治的リスクを常に念頭に置きつつ、柔軟かつ戦略的な対応を取ることが求められています。