年金受取年齢の減額と繰上げ受給の損益分岐点

年金受給開始年齢を早めると減額されるリスクがありますが、繰上げ受給と繰下げ受給にはそれぞれメリットとデメリットがあります。あなたにとって最適な年金受給開始年齢はいつなのでしょうか?

年金受取年齢の減額

年金の繰上げ受給による減額率の図解
📊 繰上げ受給の基本知識
1
年金は原則65歳から受け取れますが、最大60歳まで繰上げ可能です。
2
繰上げると1ヶ月あたり0.4%の減額(昭和37年4月2日以降生まれの場合)が適用されます。
3
減額は一生涯続くため、65歳になっても元の金額には戻りません。
📈 年齢別の減額率グラフ
 
減額率(%)
受給開始年齢(歳)
24
19.2
14.4
9.6
4.8
0
60
61
62
63
64
65
1
60歳で受給開始すると24%減額され、本来の76%しかもらえません。
2
62歳で受給開始すると14.4%減額され、本来の85.6%がもらえます。
3
64歳で受給開始すると4.8%減額され、本来の95.2%がもらえます。
💰 具体的な受給額の例
1
本来65歳から月額10万円もらえる場合、60歳からだと月額7.6万円になります。
2
本来満額77.78万円/年の場合、60歳からだと約59万円/年になります。
3
減額は一生涯続くため、長生きするほど総受給額の差が大きくなります。
出典:日本年金機構「年金の繰上げ受給」、厚生労働省資料(2025年4月現在)

65歳以降に受給を遅らせた場合はどうなる?

年金の繰下げ受給の仕組みと効果
💰 繰下げ受給の基本知識
1
年金は原則65歳から受け取れますが、最大75歳まで繰り下げることができます。
2
繰り下げると1ヶ月あたり0.7%の増額が適用され、受給開始後はその増額率が生涯続きます。
3
最大84%増額(75歳まで繰り下げた場合)となり、受給開始後はその増額率が変わりません。
📈 年齢別の増額率
増額率(%)
受給開始年齢(歳)
84
67
50
33
16
0
65
67
69
71
73
75
1
66歳で受給開始すると8.4%増額され、本来の108.4%がもらえます。
2
70歳で受給開始すると42%増額され、本来の142%がもらえます。
3
75歳で受給開始すると84%増額され、本来の184%がもらえます。
⚖️ 繰下げ受給のメリットとデメリット
メリット 👍
1
受給額が大幅に増加するため、長生きした場合に総受給額が増えます。
2
増額された年金額は生涯続くため、長生きリスクへの対策になります。
デメリット 👎
1
損益分岐点を迎える前に亡くなると、総受給額が少なくなります。
2
年金額が増えると税金や社会保険料の負担が増加する可能性があります。
3
繰下げ期間中は加給年金や振替加算が受け取れないことがあります。
🔍 損益分岐点
1
70歳から受給開始した場合、81歳が損益分岐点です。
2
75歳から受給開始した場合、86歳が損益分岐点です。
3
日本の平均寿命(男性81.47歳、女性87.57歳)を考慮して検討しましょう。
💡 具体的な受給額の例
1
本来65歳から月額10万円もらえる場合、70歳からだと月額14.2万円になります。
2
75歳からだと月額18.4万円となり、月額8.4万円の増加になります。
3
増額は一生涯続くため、長生きするほど総受給額の差が大きくなります。
出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」、厚生労働省資料(2025年4月現在)
年金受取年齢の減額ポイント
⏱️
繰上げ受給の減額率

60歳から受給すると最大24%(昭和37年4月2日以降生まれ)または30%(昭和37年4月1日以前生まれ)の減額

💰
損益分岐点

60歳から繰上げ受給した場合、80歳10カ月が65歳受給との損益分岐点

📈
繰下げのメリット

70歳まで繰下げると42%増、75歳まで繰下げると84%増の年金額に

年金受取年齢の減額率はいくらになるのか

公的年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば60歳から前倒しで受け取ることができます。これを「繰上げ受給」と呼びます。しかし、繰上げ受給を選択すると年金額は減額されることになります。

 

減額率は生年月日によって異なります。

  • 昭和37年4月1日以前生まれの人:1カ月あたり0.5%減額
  • 昭和37年4月2日以降生まれの人:1カ月あたり0.4%減額

例えば、65歳から月額10万円の年金を受け取れる人が60歳から繰上げ受給を選択した場合(60カ月分の繰上げ)、昭和37年4月2日以降生まれなら24%(0.4%×60カ月)の減額となり、月額7万6,000円になります。

 

この減額は一時的なものではなく、生涯にわたって続くため、長生きすればするほど減額の影響は大きくなります。繰上げ受給を検討する際は、この点を十分に考慮する必要があります。

 

年金受取年齢の繰上げ受給と損益分岐点

繰上げ受給を選択するかどうかを判断する際に重要なのが「損益分岐点」です。これは、繰上げ受給した場合と65歳から通常受給した場合の累計受給額が逆転する年齢を指します。

 

60歳から繰上げ受給した場合、65歳からの通常受給と比較して損益分岐点は約80歳10カ月とされています。つまり、80歳10カ月より長く生きる場合は、繰上げせずに65歳から受給した方が生涯で受け取る年金総額は多くなります。

 

日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳(2024年現在)であることを考えると、平均的な寿命を前提とすれば、繰上げ受給は総額で見るとあまり得策ではないかもしれません。

 

ただし、早く年金を受け取りたい事情がある場合や、受給総額よりも早期に安定した収入を得ることを優先する場合には、繰上げ受給も選択肢となります。自分の健康状態や家族の寿命傾向なども考慮して判断することが大切です。

 

年金受取年齢の繰下げ受給のメリットとデメリット

一方、年金の受給開始を65歳より遅らせる「繰下げ受給」という選択肢もあります。2022年4月からは繰下げ可能な上限年齢が70歳から75歳に引き上げられました。

 

繰下げ受給のメリットは、1カ月あたり0.7%の増額率が適用されることです。例えば。

  • 70歳まで繰下げ(60カ月):42%増(0.7%×60カ月)
  • 75歳まで繰下げ(120カ月):84%増(0.7%×120カ月)

65歳時点で月額10万円の年金が受け取れる人が70歳まで繰下げると月額14万2,000円、75歳まで繰下げると月額18万4,000円になります。

 

繰下げ受給の損益分岐点は、70歳まで繰下げた場合は約82歳、75歳まで繰下げた場合は約87歳とされています。平均寿命を考えると、特に女性や長寿の傾向がある方にとっては、繰下げ受給が有利になる可能性が高いでしょう。

 

ただし、繰下げ期間中は年金を受け取れないため、その間の生活費を別途確保する必要があります。また、早期に亡くなった場合は総受給額が少なくなるリスクもあります。

 

年金受取年齢と在職老齢年金制度の関係

年金受給年齢を検討する際に考慮すべきもう一つの重要な要素が「在職老齢年金制度」です。これは、年金を受給しながら働く場合に、収入に応じて年金が減額される制度です。

 

65歳未満の場合、賃金と老齢厚生年金の合計が月額28万円を超えると、超えた部分について年金が減額されます。65歳以上の場合は、賃金と老齢厚生年金の合計が月額47万円を超えると、超えた部分の半分が年金から減額されます。

 

この制度があるため、60代前半で働きながら年金を受給する予定の方は、繰上げ受給を選択すると二重の減額(繰上げによる減額と在職老齢年金制度による減額)を受ける可能性があります。

 

特に注目すべき点として、在職老齢年金制度によって年金が全額支給停止になる場合、年金受給を繰下げた方が有利になるケースがあります。年金が全額支給停止される場合の最適な年金受給開始年齢は65歳(繰下げしない)とされており、これは割引率がゼロになっても変わらないという研究結果もあります。

 

在職老齢年金制度と年金繰下げの関係についての詳細な研究

年金受取年齢の減額を避けるための最適な選択方法

年金受給開始年齢の選択は、個人の状況によって最適解が異なります。以下のポイントを考慮して判断することをおすすめします。

 

  1. 健康状態と平均寿命の見通し
    • 家族の寿命傾向や自身の健康状態を考慮
    • 長寿の傾向がある場合は繰下げ受給が有利になる可能性が高い
  2. 就労状況と収入見込み
    • 65歳以降も働く予定がある場合は在職老齢年金制度の影響を検討
    • 高収入が見込まれる場合、年金が減額される可能性を考慮
  3. 資産状況と生活費
    • 繰下げ期間中の生活費を確保できるか
    • 他の収入源や貯蓄の状況
  4. 配偶者の状況
    • 配偶者の年金受給状況や収入も考慮
    • 夫婦で異なる受給開始時期を選択することも検討

最適な選択をするためには、自分の状況に合わせたシミュレーションを行うことが重要です。年金事務所や社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することも有効でしょう。

 

また、年金制度は改正されることがあるため、最新の情報を確認することも大切です。2022年4月には繰下げ受給の上限年齢が75歳に引き上げられるなど、制度変更が行われています。

 

年金受取年齢の減額と税金・社会保険料の関係性

年金受給額を考える際には、手取り額に影響する税金や社会保険料についても考慮する必要があります。繰下げ受給によって年金額が増えると、所得税や住民税、医療保険料などの負担も増える可能性があります。

 

例えば、年金収入が増えることで所得税の課税対象額が増え、税率が上がる場合があります。また、年金収入が一定額を超えると、医療費の自己負担割合が1割から2割、または3割に引き上げられることもあります。

 

繰下げ受給のデメリットとして、「年金額が増えることにより、税金や医療費の負担額が多くなる」点が挙げられています。このため、単純に年金額の増減だけでなく、手取り額を考慮した損益分岐点は、額面だけで計算した場合よりも遅くなる可能性があります。

 

また、繰下げ受給中に加給年金(配偶者や子供がいる場合に支給される加算部分)は支給停止となりますので、家族構成によっては繰下げのメリットが減少することもあります。

 

税金や社会保険料を含めた総合的な判断をするためには、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

 

税金や医療費を含めた年金繰下げ受給の詳細な解説

年金受取年齢の減額と世界の年金制度の動向

日本の年金制度における繰上げ・繰下げ受給の仕組みを考える上で、世界の年金制度の動向も参考になります。多くの先進国では高齢化に対応するため、年金受給開始年齢の引き上げが進んでいます。

 

アメリカでは2027年までに67歳、イギリスでは2046年までに68歳に引き上げられる予定です。日本でも将来的に65歳からさらに引き上げられる可能性は否定できません。

 

また、日本の繰下げ増額率(1カ月あたり0.7%)は国際的に見ても高水準であり、長寿化が進む日本においては繰下げ受給のメリットが大きいとも言えます。

 

ただし、日本の年金制度の特徴として、在職老齢年金制度があることで、働きながら年金を受け取る場合の選択肢が複雑になっています。諸外国の多くは就労による年金減額がない、または緩やかな制度となっているケースが多いです。

 

世界的な年金制度の動向を見ると、「より長く働き、より遅く年金を受け取る」という方向性が主流となっています。日本でも「全世代型社会保障制度」の中で、70歳までの就業機会確保など、雇用制度と年金制度を両輪で改革する動きがあります。

 

将来の制度変更も視野に入れつつ、自分にとって最適な年金受給開始年齢を選択することが重要です。

 

世界の年金受給開始年齢の動向についての解説

年金受取年齢の減額シミュレーションと実践的なアドバイス

具体的な数字で考えてみましょう。厚生労働省のモデルケース(夫が会社員OB、妻が専業主婦の夫婦)では、65歳受給開始で月額約23万円の年金が支給されるとされています。

 

このケースで60歳から繰上げ受給した場合、24%減の約17.5万円になります。一方、70歳まで繰下げると42%増の約32.7万円、75歳まで繰下げると84%増の約42.3万円になります。

 

総務省のデータによると、高齢夫婦世帯の平均的な生活費は月額約28万円とされています。65歳受給開始では不足が生じますが、70歳以降の繰下げ受給ならば年金だけでもカバーできる計算になります。

 

実践的なアドバイスとしては、以下のような選択肢が考えられます。

  1. 段階的な受給開始
    • 夫婦で異なる受給開始時期を選択
    • 例:片方が65歳から受給開始し、もう片方は繰下げ受給を選択
  2. 部分的な繰下げ
    • 老齢基礎年金と老齢厚生年金で異なる受給開始時期を選択
    • 2022年4月からは老齢基礎年金と老齢厚生年金を別々に繰下げることが可能に
  3. 繰下げ待機中の方針変更
    • 繰下げ待機中に事情が変わった場合は、その時点で受給開始可能
    • 待機中の年金は一括で受け取れる(ただし増額はされない)
  4. 在職中の戦略的な選択
    • 高収入で働く予定がある場合は、在職老齢年金制度の影響を考慮
    • 収入が減少する予定がある場合は、その時期に合わせた受給開始を検討

年金受給開始年齢の選択は一度決めると変更できないため、慎重な判断が必要です。自分の状況に合わせたシミュレーションを行い、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。

 

年金の繰上げ・繰下げに関する詳細な解説とシミュレーション