「クリエイターの年収が低いかどうか」を判断するには、まず“比較の物差し”を揃える必要があります。
たとえば、民間給与の平均が478万円という公表情報があり、これを基準にすると「平均より低い・高い」を説明しやすくなります。
一方で、クリエイティブ職の平均年収として349万円という目安を示す情報もあり、平均との差が話題になりやすいのはこのギャップが背景です。
ただし、ここで注意したいのは「平均年収」という言葉の落とし穴です。
平均は一部の高年収層に引っ張られるので、実感とズレることがあります。さらにクリエイターは、同じ職種名でも業界(広告・ゲーム・出版・映像)や役割(制作・ディレクション・プロデュース)で年収のレンジが大きく変わります。
参考)クリエイターの平均年収はどのくらい?給与アップのポイントは?…
また、統計で見ると「雇用される職種」の賃金をベースにしている資料が多い一方、現実のクリエイターは業務委託や副業の比率が高く、同じ土俵で比べにくいことも混乱の原因です。
数字を見るときは、次の3点セットで確認すると判断が安定します。
公的統計の「賃金構造基本統計調査」は、賃金の実態を職種・性別・年齢などと賃金の関係で把握する目的を持つ統計として位置づけられています。
参考)賃金構造基本統計調査
この種の統計は“ベースライン”として強い一方、個人の稼ぎ方(直請け比率、稼働時間、二次利用条件)までは映しにくいので、次章の「なぜ低くなりやすいか」に進むと腹落ちしやすいです。
参考:政府統計(賃金の実態を職種別に確認できる・基準作りに便利)
賃金構造基本統計調査
クリエイターの年収が伸びにくい理由として、需要より供給が増えやすく、価格競争になりやすいという説明がよく出てきます。
これは「参入障壁の低さ」とセットで起きやすく、始めやすい領域ほど“安い発注が成立してしまう”構造になりがちです。
ここで重要なのは、「単価が低い」だけが問題ではない点です。年収を削るのは、単価の低さに加えて“実働以外の時間”が増えることです。
特にクリエイティブ案件は、次のような“見積り外コスト”が発生しやすいです。
一方で、マーケット自体が縮んでいるわけではない、というのも押さえておきたい意外な点です。
たとえば国内の動画広告市場は、2025年に1兆円規模に到達する見込みという推計が報じられており、需要側は増えている側面があります。
参考)日本の動画広告市場、2025年には1兆円突破の見込み【サイバ…
それでも現場の単価が上がらないケースがあるのは、需要増より速く供給が増えたり、中間レイヤーが厚くなって分配が薄まったり、成果物の“差”が伝わらないまま発注されるなど、複数要因が重なるためです。
単価の交渉を「自分の言い値」に近づけるには、スキルの話だけでなく、成果を“発注者の言葉”に翻訳する必要があります。
具体的には、クリエイター側の表現(かっこいい・世界観)を、発注者側の評価軸(CVR、継続率、工数削減、運用の回しやすさ)に変換して提示すると、価格競争から抜けやすくなります。
会社員とフリーランスは、同じ制作でも「年収の中身」が別物です。
会社員は給与として毎月入ってくる安定性がある一方、フリーランスは売上が増えても税金・保険・機材・学習投資などを自分で持つので、体感の手取りが伸びにくい局面があります。
統計の平均給与(例:478万円)と比べるときに、会社員の年収だけを見て「フリーランスは高い/低い」を判断するとズレます。
参考)国税庁、「令和6年分民間給与実態統計調査結果について」を公表…
比較するなら、最低でも「手取り」「稼働の安定」「福利厚生(有給・傷病)」を同時に並べるのが実務的です。
| 観点 | 会社員 | フリーランス |
|---|---|---|
| 収入の形 | 給与(固定+賞与がある場合) | 売上(入金時期がブレる) |
| 守り | 雇用の枠内で守られやすい | 契約と取引条件で守る必要 |
| 伸ばし方 | 昇給・評価制度・職位 | 単価・直請け・継続・紹介 |
| 落とし穴 | 給与テーブルが低い会社だと頭打ち | 経費・税・保険・非稼働で目減り |
フリーランスのほうが上振れしやすいのは事実ですが、その代わり下振れも大きくなります。
だからこそ「フリーランスになる/ならない」より先に、“どの収益モデルなら継続できるか”を決めるのが安全です(直請け比率、月額契約、成果報酬の可否など)。
参考:国の広報(フリーランス新法の全体像と、発注側・受注側のポイントが整理されている)
フリーランスが安心して働ける環境づくりのための法律、2024…
年収を上げる最短ルートは「高単価案件を取ること」ですが、現実には“いきなり単価を上げる”のは難しいです。
そこでおすすめは、単価を直接上げるのではなく、年収の式を分解して、テコが効く場所から変えることです。
具体的な「案件の取り方・作り方」のコツは、次の通りです。
また、需要が伸びている領域に寄せるのも現実的です。
広告費の動向として、映像関連の制作需要が高まったという説明があり、企業側の需要が増える局面は確かに存在します。
参考)2024年 日本の広告費 - News(ニュース) - 電通…
ただし需要がある領域でも、供給が多い“作業部分”だけに留まると単価は伸びにくいので、「設計(構成)」「改善(運用)」「統括(ディレクション)」のどれかに一段上がる意識が必要です。
参考:日本の広告費(動画需要や制作需要の増減を掴むのに便利)
2024年 日本の広告費 - News(ニュース) - 電通…
検索上位では「スキル」「単価」「案件」が中心になりがちですが、年収の底上げで見落とされやすいのが“契約”です。
同じ制作物でも、契約の書き方次第で「二次利用」「改変」「追加制作」「クレジット表示」「支払サイト」などの条件が変わり、長期の取り分が変わります。
意外と知られていない実用情報として、文化庁が「著作権契約書作成支援システム」を公開しており、状況に合わせた契約書ひな形を作る導線があります。
参考)「著作権契約書作成支援システム」の構築について
この仕組みを“そのままコピペして使う”のではなく、発注者との合意形成のたたき台として使うだけでも、口約束の事故を減らせます。
参考)文化庁、新たに「著作権契約書作成支援システム」を構築し公開:…
さらに、フリーランスの取引に関する新しい法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が2024年11月1日に施行された、という整理が公的に示されています。
参考)フリーランスが安心して働ける環境づくりのための法律、2024…
この法律は「取引の適正化」と「就業環境の整備」を柱として説明されており、発注側に条件明示などを求める方向の情報がまとまっています。
年収が低い状態から抜けるには、営業やスキル強化と同時に、「不利な条件を飲まないための型」を持っておくのが効きます。
参考:文化庁の公式(著作権契約書のひな形作成に直結する)
https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/