「患者の臓器の写真」は、単なる画像データではなく、文脈次第で患者の診療情報として扱われます。厚生労働省のガイドラインでは、診療録や検査所見記録、エックス線写真などが個人情報の例として挙げられており、医療画像が個人情報になり得ることが明確です。
さらに個人情報保護委員会と厚労省のQ&Aでは、医療・介護分野で扱う「要配慮個人情報」として、診療録等に記載された病歴や診療情報、治療等の情報が具体例として示されています。
重要なのは「顔が写っていないから安全」という発想が通用しにくい点です。氏名等を削除しても、他の情報と容易に照合でき特定できる場合は全体として個人情報に該当し得る、という考え方がQ&Aで示されています。
たとえば、写真に患者IDが写っていなくても、撮影日時・希少疾患・特徴的な手術所見・施設名・担当医の発言などの断片が揃うと、関係者には「誰の写真か」が推測できてしまうことがあります。これは「臓器の写真そのもの」より、付随情報(メタデータ、説明文、SNS投稿文)が再識別の材料になる典型例です。
また、死亡した患者の情報は法律上の「個人情報」ではないという整理がある一方で、ガイダンスは死亡後であっても漏えい等防止のため生存者と同様の安全管理措置を講ずるよう求めています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000144825.pdf
医療機関が個人情報を扱う際は、利用目的を特定し、通知または公表する枠組みが基本になります。
Q&Aでは、要配慮個人情報の取得や個人データの第三者提供は「原則として、あらかじめ本人の同意を得る必要がある」と明記されています。
一方で、診療現場には例外や実務上の整理があります。Q&Aでは、患者が問診票に状態を記載して受診する行為は、医療機関が要配慮個人情報を取得することを前提としているため、適正に直接取得する場面では「当該行為をもって同意があったものと解される」と示されています。
ここで誤解しやすいのが、「診療目的で撮影する臓器写真」なら何にでも使ってよい、という飛躍です。診療のための取得・院内利用と、教育・広報・研究・学会発表・SNS掲載のような“外に出る利用”はリスク構造が違います。
ガイドラインは、特定の患者の症例を学会発表・学会誌で報告する場合、氏名等を消去して匿名化できることがある一方で、十分な匿名化が困難な場合は本人同意が必要、としています。
つまり、同じ「患者の臓器の写真」でも、利用目的が診療から逸れるほど、同意の要件や説明責任の重さが増していく、という理解が安全です。
実務の落とし穴として、同意の取得方法より「同意の射程」が曖昧なケースがあります。Q&Aでは、本人同意の方法は法令上限定されず、文書以外(口頭、電話等)も認められるとしたうえで、内容や緊急性を勘案して適切な方法で同意を得るべきとしています。
ただし「何に使うか(診療・教育・研究・広報)」「どこまで公開されるか(院内のみ・限定配布・Web掲載)」「撤回や変更ができるか」まで説明されていない同意は、後から紛争の火種になります。
匿名化は万能ではありません。厚労省ガイドラインは、氏名・住所等を取り除くことが匿名化だとしつつ、他情報との照合で特定される場合は個人情報として扱われ得るため、利用目的や利用者を勘案した処理が必要だと述べています。
個人情報保護委員会のQ&Aも、氏名等を削除した情報や顔写真をマスキングした情報でも、他の情報と容易に照合でき特定できる場合は全体として個人情報になり得ると説明しています。
この「容易に照合できる」の基準が、SNS時代には一気に厳しくなる点が意外なポイントです。一般公開された投稿が、他の投稿、ニュース、施設の症例紹介、地域の噂などと結びつき、意図せず再識別を成立させるからです。
安全管理措置について、ガイドラインは組織的・人的・物理的・技術的な安全管理措置を求め、教育研修、入退室管理、アクセス管理、アクセス記録保存、不要データの廃棄などの例を示しています。
特に「患者の臓器の写真」は、ファイル共有や私物端末、クラウド同期で漏えい経路が増えがちなため、保存場所・アクセス権・持ち出しの可否を明文化しない運用は危険です。
漏えい等が発生した場合についても、原因究明、影響範囲の特定、再発防止策、必要に応じた本人通知や委員会への報告など、対応の考え方がQ&Aで整理されています。
参考リンク(医療・介護分野の個人情報の取り扱い、要配慮個人情報、同意、匿名化の考え方がQ&A形式でまとまっている)
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/iryoukaigo_guidance_QA/
個人データを第三者に提供する場合は、原則として本人同意が必要、というのがガイドラインの基本です。
ただし医療の提供に必要で、かつ利用目的として院内掲示等で明示されている範囲に限り、原則として黙示の同意が得られていると考えられる、という整理も示されています。
この整理は「病院間連携」や「家族等への病状説明」など、患者の治療のために通常行われる範囲を想定しています。
つまり、黙示の同意が期待できるのは「患者の利益のために通常必要」な範囲であって、興味本位の共有や、広報・SNSのように不特定多数へ届く可能性がある行為とは性質が異なります。
Q&Aでも、医療機関の職員以外が症例検討会に参加する場合は第三者提供となり、原則として患者本人の同意が必要、とされています(匿名加工情報を用いるなら別、という発想も示されています)。
「患者の臓器の写真」を院外の勉強会・共同研究者・外部の制作会社へ渡すような場面では、第三者提供の線引きを必ず意識するべきです。
実務上のチェック項目としては、次のように整理すると事故が減ります。根拠は、第三者提供の原則や、委託先監督・安全管理の要請にあります。
検索上位の解説は「同意が必要か」「匿名化すべきか」に寄りがちですが、もう一段深い論点として「透明性」と「窓口設計」があります。厚労省ガイドラインは、プライバシーポリシー等の宣言、取扱規則の策定・公表、そして患者・利用者が気軽に問い合わせできる窓口機能の確保を求めています。
この“窓口”の発想は、実は「患者の臓器の写真」問題に効きます。撮影や保存そのものより、「あの写真は何に使われるのか」「削除できるのか」「見せてほしい」「学会発表に使われるのか」といった不安が炎上の入口になりやすいからです。
個人情報保護の考え方は社会情勢や意識の変化に対応して変化し得るので、不断の検証と改善が求められる、というQ&Aの指摘もこの文脈に合致します。
意外な盲点は「匿名化しているつもり」の運用が、院内の別データで簡単に戻せてしまう点です。ガイドラインは、事業者内で他情報や対応表と照合すれば識別され得ることに触れており、匿名化の設計は“どの範囲の人が照合可能か”まで含めて決める必要があります。
また、医療画像は長期保存されがちで、媒体劣化やアクセス権の引き継ぎ不備が後年の漏えいにつながるため、「長期保存する場合の劣化防止」「検索可能な状態での保存」など、保存そのものの品質管理も安全管理措置として示されています。
トレンドとしては、院内の教育・研究・品質改善で画像利活用が増える一方、外部参加者が混じるオンライン症例検討やクラウド共有が増え、第三者提供・委託・安全管理の境界が曖昧になりやすいことが、実務の緊張点になります。
最後に、現場・発信側(ブログやメディア運営)が最低限守るべき態度は「誰かの臓器の写真を見せること」ではなく、「どこまでなら安全に語れるか」を設計することです。個人識別につながる情報を削るだけでなく、照合可能性・目的外利用・第三者提供・同意の射程まで含めて点検する姿勢が、結果として最も炎上しにくい運用になります。